不法就労助長罪とは

 

近時、深刻な人手不足から、不法就労者を雇用し、検挙される例が相次いでいます。

では、外国人の不法就労者を雇用していると事業主にはどのような責任が発生するのでしょうか。

また、不法就労者とは知らないで外国人を雇用していた場合にも責任が発生するのでしょうか。

このような事態を防ぐため、雇用主は、外国人を雇用する際、不法就労活動になるかどうかをどのように確認すればよいでしょうか。

この点、外国人に不法就労活動をさせた場合や、不法就労活動をさせるために外国人を自己の支配下に置いた場合は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処せられます。場合によっては懲役と罰金を併科されます。これを不法就労助長罪といいます。

この場合、もちろん不法就労者であることを知らなければ罰せられることはありません。しかし、「知らなかった」ことを立証することは思いのほか困難です。

ですから、外国人の雇用主であれば不法就労者であると知っていたと認定される危険性があります。

このような事態を避けるためには、外国人を雇用する場合に就労資格が不明瞭な場合には、就労資格証明書を提出してもらい、適法に就労することができるかどうかを確認した方がよいでしょう。

 

不法就労の処罰対象者とは

日本に潜在する入管法違反者の多くが不法就労を目的としているといわれます。これは日本での賃金が特に近隣のアジア諸国より高く、日本で働きたいという潜在的ニーズがまだまだ高い、ということなのでしょう。

ただ、不法就労問題は、国家の出入国管理の基本的秩序を乱すだけでなく、社会経済秩序にも悪影響を及ぼし、また、外国人労働者白身の賃金・医療等の差別的扱いなど基本的人権を侵害します。

ですから、国としても不法就労者を減少させるため、雇う側も雁われる側もともに刑事罰の対象とし、また不法入国者、不法上陸者、不法残留者とともに専ら資格外活動を行っている者は退去強制手続の対象としています。

 

不法就労活動の内容とは

入管法では、不法就労活動を次のように定義しています。

① 在留資格をもって在留する者の資格外活動であって、報酬その他の収入を伴うもの(ただし、業として行うものではない一定の活動に対する謝金や臨時の報酬を受ける活動は除かれます。)

② 不法入国者、不法上陸者、許可された在留期間を経過して不法残留する者などが行う活動で報酬その他の収入を伴うもの

したがって、在留資格があっても資格外活動としての就労活動、不法入国者やオーバーステイの人の就労活動は不法就労活動として位置づけられます。

ですから、雇用主としてもパスポートや在留カードを持っているから大丈夫とは考えず、在留資格の範囲内で出来る活動なのかを判断する必要があります。

 

不法就労助長罪の概要

入管法では、いわゆる不法就労助長罪として、次の者を3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し、またはこれを併科するものとしています。

① 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者

② 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者

③ 業として外国人に不法就労活動をさせる行為、または②の行為に関しあっせんした者

①の「事業活動に関し」とは、「行為者(事業主)が自ら運営しまたは従業者として従事している事業の目的遂行のために必要な活動に関し」という意味と解されています。

また、不法就労活動を「させた」とは、「外国人との間で対人関係上優位に立っており、外国人が自己の指示どおり不法就労活動に従事する状態にあることを利用して積極的に働きかけ、そのことにより外国人が不法就労活動に従事するに至った」という意味であり、例えば、事業の経営者・雇用主またはその従業者で監督的立場にいる人が外国人を使役して不法就労活動に従事させることであるとされています。

ただし、判例では、上記解釈を若干緩和し、「自己の指示どおり」とか「積極的に働きかけ」との要件には触れず、「外国人に不法就労活動をさせたとするためには、当該外国人との間で対人関係上優位な立場にあることを利用して、その外国人に対し不法就労活動を行うべく指示等の働きかけをすることが必要である」としています。

 

いずれにせよ、経営者、代表取締役、従業員といった身分にかかわらず、また、賃金支給者であるか否かにかかわらず、実際に監督的立場を利用して不法就労活動をさせたということになれば本条により正犯として罰せられる可能性がでてきます。
②の「自己の支配下に置いた者」とは、外国人に心理的ないし経済的な影響を及ぼし、その意思を左右しうる状態におき、自己の影響下から離脱することを困難にさせた場合も含まれると解されています。

したがって、自己または第三者が、外国人に不法就労活動させるために、外国人に居室を与えてこれに見張りをつけて監視したり、あるいはパスポートや所持金を取り上げて行動の自由を制限することが本条に当たると解されます。
③の「あっせん」行為は、例えば、オーバーステイの外国人を第三者に紹介して同人に雇い入れてもらうようあっせんすることで、これを業としている場合に該当します。「業として」とは。反覆継続して、または反覆継続する意思をもってなすことをさします。一般に報酬を得てなすことが多いと思われますが、報酬を受領しなくとも本罪は成立します。

不法就労助長罪の刑罰について

なお、不法就労助長罪は両罰規定となっており、法人の代表者や監督的立場にあった従業員が個人的にではなく法人の業務に関して助長行為をなした場合には、個人のほか法人に対しても罰金刑を科すこととなっています。
また、集団密航者を日本に入らせた者からその密航者を収受したうえ、不法就労活動をさせた者は、輸送、蔵匿、隠避させた者として5年以下の懲役または300万円以下の罰金として重く罰せられることもあります。

 

不法就労者であることを知らなかった場合

雇用主が、外国人労働者が不法就労者であることを知らなかった場合は罰せられません。刑法38条1項に「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」と規定されています。

つまり、故意犯でなければ罰せられないという刑法上の大原則があるからです。ただし、注意義務違反の過失によって罪を犯したという過失犯については、法律に特別の規定があれば過失犯として罰せられることになります。

入管法の不法就労助長罪には過失犯を罰する規定はありません。したがって、不注意で雇ってしまったとしても、不法就労であることを知らない限りは罰せられないことになります。

しかし、「法律を知らなかった」ことは故意がないことにはならず、刑罰を免れることにはならないことに注意が必要です。「法律を知らなかった」といえば刑罰を免れるとすれば大変なことになってしまうので、建前上、一般国民は法律を知っているということになっているからです。

 

不法就労助長罪に該当しない場合でも虚偽申請をすれば処罰対象に

 

従前より、入国管理局への申請にあたり、偽造書類や内容が虚偽の書類を提出することにより、不正にビザ・在留資格を取得し、本来、日本に在留できない外国人が日本に偽装滞在する事例が後を絶ちませんでした。

しかしながら、虚偽申請はしているものの、不法就労助長罪で立件するには証拠が不十分であるケースについては立件できないケースが多々ありました。

そこで、偽装滞在者対策の強化を図るため、ビザ・在留資格の不正取得を犯罪とし、偽装滞在者に関する罰則を整備する入管法の法改正が行われました。これにより、かなり広範囲で処罰が可能になりました。

 

ビザ・在留資格不正取得の罰則の対象者と罰則の内容

(1)罰則の対象者

偽りその他不正の手段により

①日本に上陸許可を受けて上陸した者

②ビザ・在留資格の変更許可を受けた者

③ビザ・在留期間の更新許可を受けた者

④永住許可を受けた者 など

(2)罰則の内容・法定刑

①3年以下の懲役又は禁錮

②300万円以下の罰金 のいずれか又はその両方

なお、営利目的で、このような行為を行うことを容易にした者は、通常の刑法による幇助犯処罰(刑法62条、63条、68条3号)よりも加重された3年以下の懲役又は300万円以下の罰金のいずれか又はその双方を科すものとされています。

近時の事例では、外国人を雇用していないのに雇用しているように見せかけるケースで、雇用主が立件されるケースが相次いでいます。安易に虚偽申請を行うと立件されますので、外国人を雇用する際は、正直な申請を心がけるようお願いいたします。

 

外国人の就労資格の有無の確認方法

外国人が合法的に就労する資格があるのかどうかは、パスポートに押された上陸許可証印のほか、在留カードや在留カードに押印してある資格外活動許可の記載を見ることによって確認できる場合もあります。

しかし、それだけでは具体的にどのような活動が認められるのか必ずしも判然としない場合もあると思われます。

そのような場合に、外国人が地方入国管理官署に申請することによって、その者が行うことができる就労活動を具体的に示した「就労資格証明書」を交付してもらうことが可能であり、これによって、雇用しようとする外国人がどのような就労活動を行うことができるのか容易に確認できます。

就労資格証明書を交付してもらうためには、当然のことながら就労資格を有することが前提となっていますので、入管法別表第1に定める在留資格のうち就労することができる在留資格を有していること、または、就労することができない在留資格を有している者で資格外活動の許可を受けていること、または、就労することに制限のない在留資格を有していることが、交付を受けるための審査基準となります。

なお、在留カードの記載等から、外国人が就労活動を行うことができることが明らかな場合には、就労資格証明書の提出がないことを理由に雇用しないこと、あるいは減給、解雇等不利益な取扱いをすることは許されませんので、この点はご注意ください。